長井健司さんの1周忌に寄せて

yukigeshiki2008-10-17

2007年9月27日のこと。その日、私は弊社所属の作曲家・音楽プロデュサーの山路敦司が、大森一樹監督作品「悲しき天使」」(湯布院映画祭オープニング上映、おおさかシネマフェスティバル、第19回東京国際映画祭「ある視点」部門オープニング、京都映画祭招待上映)の映画音楽のメインテーマ曲に歌詞を付けようと自宅で音楽を聴きながらあれこれ詩作をしていた。元々はあるアーティストが歌うために作曲したデモ曲だったが、レコード会社の意向で使われずにあったものを、音楽監督を依頼された「悲しき天使」の映画音楽に合うということで、オーケストラバージョンにアレンジをしてチェコフィルの演奏でメインテーマ曲として仕上げたのだ。そして、嬉しいことに「おおさかシネマフェスティバル」の一般鑑賞者の投票による音楽賞を受賞までしてしまったものだった。お蔵入りになるところだった音楽がこんな風に日の目を見るということはそうはないことだし、こんなに美しいメロディーはそうそう生まれるものではないので、「元々歌ものだったのだから歌詞を付けて歌として出すべきよ。」と私が山路に主張したことからそのメロディーに歌詞を付ける羽目になったのだった。漠然と「Love&Peace」をテーマに書こうとしていたのだが詞が浮かんでこないまま時が過ぎていた。
その時、テレビの11時台のニュースを見た私の目に飛び込んできたものは、映像ジャーナリストの長井健司さんがミャンマーで軍事政権に反対する僧侶や市民のデモの取材中に撃たれた映像だった。撃たれてもなお天に向かってカメラをしっかり握りしめている映像は衝撃でした。何の武器も持っていないカメラを手にしたジャーナリストを射殺するなんて許せないという憤怒がこみ上げてきたと同時に、私に生きて在るいのちの大切さを伝えた陸軍の航空部隊のパイロットだった父が駐留していたビルマなんだ、そう言えば父はビルマ語を少し話していたようなと父のことも思い出された。すると私の身体の中を駆け抜けていく熱いものを感じ、歌詞が溢れ出てきた。書き上げるのに一時間はかからなかったと思う。
映像で長井さんがいのちを懸けて伝えようとしたものの強い意思が、音楽で平和への思い、いのちへの思いを伝えようとそして未来を生きる子供達に光を届けたいと、コンコルディアという音楽事務所を立ち上げ、たくさんの人の応援で悪戦苦闘しながら運営してきた私への強いメッセージになったことは間違いない。
こうして、溢れ出たその歌詞でKennyが歌い7月にレコーディングを終え、「涙〜世界のどこかで瞬間(いま)」という歌がついに誕生した。この歌が生まれたそのことを伝えたくて、聴いてもらいたくてまずAPF通信の山路徹代表を社に訪ねた。山路さんは心なしか目が潤んで「素晴らしい、これは長井のテーマ音楽にしたいくらいだ。」と仰ってくださって、その後のメールでも一晩中聴いてくださったというあたたかなメールを送ってくださり、何とも言えぬ気持ちにさせられた。
出来るだけたくさんの人にこの「涙〜世界のどこかで瞬間(いま)」を聴いてもらいたい。そしてそのメッセージを伝えたいという思いで現在はいっぱいです。不安定な社会情勢の現在だからこそ、この音楽はきっと人々の胸に届くに違いないという強い信念が私を動かしています。リリース予定は2009年2月18日ですが、その前に音楽はどこかで聴こえてくることでしょう。
長井健司さんあなたが残したたくさんのメッセージを私も確かに受け取りました。ありがとうございました。「涙〜世界のどこかで瞬間(いま)」を天国で聴いてください。


APF NEWS http://www.apfnews.com/whatsnew/2008/11/1111kenny.html